研究代表者
イリス・ハウカンプ (東京外国語大学)
プロジェクト概要
このプロジェクトは、1934年から1937年にかけて京都で結成された若手脚本家集団「鳴滝組」の活動と遺産を調査するものである。
鳴滝組において、集団ペンネーム「梶原金八」のもと、時代劇という大衆的ジャンルを再活性化させるべくスタジオの垣根を越えて活動した映画作家や監督たちの中には、後に映画界で著名人となり、テーマ性や美学に関して日本映画に影響を与えた者もいる。「梶原」は、日本映画の「第1次黄金時代」の特徴にとどまらない、政治や文化の急激な転換期における日本の文化生産の「暗い谷間」に新たな光を当てるような、娯楽、創造、熱狂をもたらした。
世界各地の映画界を揺るがした、サイレントからトーキーへの画期的な移行に大きくかかわる2つの政治体制の狭間にあって、鳴滝組は日本と世界の(映画の)歴史の重要な一部を担っていた。彼らは他の映画作家集団に比べ、明確な政治的関与は少なかったものの、全体的な刷新、映画の役割と可能性、集団的実践について、ローカル/グローバルな言説の枠組みのなかで動いていた。前進座(歌舞伎劇団)のために書かれた彼らの脚本は、革新的劇団による自然主義的な演技、時代設定における現代的な言葉や方言の導入により、伝統的な過去の表象や過去についての考え方を打ち破るものであった。
本研究では、この多作な映画作家集団の作品について、グローバル/ローカルな文化史、産業史、社会政治史のなかでの位置づけにとどまらず、映画製作者間の職務的な結びつきや、彼らのもつ広範なネットワークがもたらした芸術・知の表現・関心の相互交流にも注意を払って検討する。
本研究は、日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(課題番号:21K12894〈2021-2024〉、19K20825〈2018-2020〉)の助成を受けたものである。
研究目標
このプロジェクトでの主たる問いは以下の通りである。
- 鳴滝組とその活動を、地域的/世界的な動向と文脈の中でどのように捉えられるか。
- 鳴滝組の集団的活動の目的、そして彼らの全体的、テーマ的、様式的/美的な革新性は何であったのか。
- 集団活動のシナジーは、どのようなものだったのか。すなわち、アーティスト個人を超えるものだったのか、そして誰が作者と見なされるようになったのか。
- 彼らはどのような美学的、知的、政治的ムーヴメントとどのように交わったのか?
- 日本や海外の映画やその言説に彼らが残したものは何か?
これらの問いに答えてゆくためには、映画界内外のつながりやネットワークをたどるデータベースが不可欠である。今後はより現代的なデータにも視野を広げてゆく予定である。