京・大坂の文化サロンとネットワーク 1780年~1880年

研究代表者

矢野 明子 (大英博物館)

赤間 亮 (立命館大学)

研究分担者

ロジーナ・バックランド (大英博物館)

アルフレッド・ハフト (大英博物館)

ティモシー・クラーク (大英博物館名誉教授)

アンドリュー・ガーストル(ロンドン大学東洋アフリカ学院〈SOAS〉名誉教授)

中谷 伸生 (関西大学名誉教授)

平井啓修(国立京都近代美術館)

共同研究者

明尾 圭造(大阪商業大学)

井田 太郎(近畿大学)

岩佐 伸一(大阪歴史博物館)

ジョン・カーペンター (メトロポリタン美術館)

ミヒャエル・キンスキー(Frankfurt University)

ベティーナ・グラムリヒ=オカ(上智大学)

スコット・ジョンソン(関西大学名誉教授)

杉本欣久(東北大学)

佃一輝 (一茶庵家元)

エリス・ティニオス (Leeds University, emeritus)

ポール・ベリー (関西外国語大学名誉教授)

アンナ・ベーレンス (Japanese Art Program, Brill; formerly Leiden University)

松葉涼子 (Sainsbury Institute for the Study of Japanese Arts and Cultures/University of East Anglia)

山本ゆかり(多摩美術大学)

山本嘉孝(国文学研究資料館)

横谷賢一郎(大津市歴史博物館)

研究主旨

本プロジェクトでは近世の日本社会における文化サロンや共同制作(または合作)にかかる芸術制作がもつ文化的・社会的インパクトについて広く考察するものである。このような視点からの研究はこれまで数少ない。とくに1780年から1880年にかけての京都・大坂に焦点をあてるのは、この点においても、江戸や東京の文化史的研究に比して、大いに研究を深める余地があるエリアであるためだ。江戸時代における集合的・共同的芸術制作は文化グループ活動の文脈で行われることが多かった。このような活動の物理的産物は多数遺存しており、書画や摺物、版本などの形態がよく見られる。これらの制作は俳諧や狂歌グループ、絵師や文化人のつながりやネットワークの中で生み出された。広義の芸術に参加することが広く行われていたことは明らかである。さまざまな出自の人々、老若男女、プロとアマチュア、などが「遊芸」を通じて交遊し、単に消費者としてではなく、もっと重要なことは、号を名乗る文化人として積極的に制作にたずさわった。

本プロジェクトの中心にあるのは、立命館大学アート・リサーチセンターが運営するオンライン・データベースである。このデータベースに大英博物館所蔵の摺物3000点、絵画500点、版本100点(いずれも概算)の画像とテキストの翻刻を記録する。加えて、関西大学所蔵の摺物と絵画、ポール・ベリー氏の白澤庵コレクションの絵画についても、同様の作業を行う。これら日本と英国における、従来あまり注目されることのなかった作品群がデジタル化され、初めて「共同制作になる作品」という観点からまとめて考察の対象となることは意義深い。プロジェクトの1780年から1880年という枠組みは、対象作品の守備範囲に拠っている。オンライン・データベースは有効な研究ツールとして機能し、それを十全に使いこなすことで次の問いに答えることを目指す。

1.文化グループへの参加者は誰で、どのようなタイプのグループがあったか。

2.グループのメンバーの間にはどのような関係があったのか。他のグループや隣接分野のグループなどとはどのようなつながりが考えられるか。そしてどのくらい広範囲にネットワークは広がったのか。

3.これらのグループや参加者、彼らのつながりやネットワークを理解することが、作品の解釈や展示にどのような意味をもち、ポジティブな変化をもたらせるか。

この研究プロジェクトでは、知られている人物から、これまで知られない「ごく普通の」人物にいたるまで、その文化への参加を追い、そのような活動がもつ文芸制作・社会・美学・アイデンティティ意識などへのインパクトを細かに考察する。プロジェクト計画の初期段階での調査から、文化活動を通じた人々のつながりの程度の広さは、封建社会のシステムが実際にどのように機能していたのかについての再考を迫ってくる。活発な活動が行われる社会環境を醸成し、洗練されたかたちでの地域のコミュニケーションを可能にする、こうしたグループ(あるいはサロン、サークル)は、さまざまなレベルでのネットワークを通じて日本の他の地域ともつながっていた。このようなシステムが「サロン文化」の土壌とも言うべきものをかため、近世日本の重要な一側面を形成したと仮説し研究を進める。